グエン・ファン・チャン

グエン・ファン・チャンという画家と作品

グエン・ファン・チャン 阮 藩正  Nguyen Phan Chanh (1892.7.21-1984.11.22)

ベトナムの画家。ベトナム近代美術のパイオニアのひとりで絹絵の創始者。
号は鴻南。パットティン県で生まれ、ハノイで歿。
1925年ハノイに創立されたインドシナ美術学校の第1期生となる。在学中に自ら中国の伝統絵画を学び、
それを翻案して、ベトナム近代絹絵という新たなジャンルを創始した。
チャンの画業の成熟とともに、絹絵は東洋の伝統と西洋の技法を融合した独特の国民絵画として成長していく。
1939年にいったん故郷へ戻るが第一次インドシナ戦争に勝利した1955年ハノイに戻ってベトナム高等美術学校で後進の育成に努めた。
ベトナム近代絹絵の誕生を告げた代表作『オーアンクァン遊び』(1931年 福岡アジア美術館蔵)に見られるように、
ベトナムの農村に生きる人々の日常の営みを、アースカラーの穏やかな色調で、淡々と描き続けた。
そこに流れる繊細でロマンチックな詩情は、ベトナム近代美術の最良の側面のひとつであろう。

九州大学教授(美術史) 後小路 雅弘

グエン・ファン・チャン

きめ細かく華奢な絹が、その美しさを永久に保てるものなのか!
そこに描かれた、最も正確な筆致が、色褪せていくのか!
あるいは、霊妙かつ妖気な色彩は、芸術家として私が耐えてきたように、持ち堪えうるのか、
それを、誰が確信をもって言えようか!
…生きつづけるものは“ 人情 ヒューマニズム の絵画”である。
人生の嵐を克服するのを助けてくれたのは、この“ 人情 ヒューマニズム ”である。
私と、この国及び海外の友たちとの間に、共感を創造してきたものも、また、この“ 人情 ヒューマニズム ”なのである。

グエン・ファン・チャン (藤田 繁 訳)

絵画リスト

絵画修復プロジェクト

絵画保存・修復家 岩井希久子

展覧会

ドキュメンタリーフィルム

修復プロジェクト基金

Painting

Nguyen Phan Chanh

「牛に乗って川を渡る女」絹絵 1967年
三谷産業株式会社蔵
「船を燻す」絹絵 1938年
グエン家蔵 ©Nguyen Nguyet Tu
「籾篩」絹絵 1960年
グエン家蔵 ©Nguyen Nguyet Tu
「籾篩」水彩画 1960年
グエン家蔵 ©Nguyen Nguyet Tu
「子供」水彩画 1960年
グエン家蔵 ©Nguyen Nguyet Tu
「旱魃に備える」水彩 1954年
三谷産業株式会社蔵
「弟を抱く」 デッサン 1960年
グエン家蔵 ©Nguyen Nguyet Tu
「子供を抱く」 デッサン 1960年
グエン家蔵 ©Nguyen Nguyet Tu
「サ・ナム市場に行く」 デッサン 1935年
グエン家蔵 ©Nguyen Nguyet Tu
「市場から帰る」 デッサン 1938年
グエン家蔵 ©Nguyen Nguyet Tu
「籐を編む」水彩画 1960年
グエン家蔵 ©Nguyen Nguyet Tu
「薪を採りに行く」絹絵 1938年
グエン家蔵 ©Nguyen Nguyet Tu
「線香行列」絹絵 1938年
グエン家蔵 ©Nguyen Nguyet Tu
2017 修復作品
「かくれんぼ」絹絵 1939年
グエン家所蔵 ©Nguyen Nguyet Tu
「アヒルの世話」絹絵 1971年
グエン家所蔵 ©Nguyen Nguyet Tu
「自画像」 絹絵 1962年
グエン家所蔵 ©Nguyen Nguyet Tu

Vitnamese Silk
Painting
Conservation
Project

保存修復プロジェクト

20世紀のベトナム近代絹絵の生みの親として知られる
グエン・ファン・チャン。
その傷んだ作品を保存修復し未来に遺したいー。
画家の長女であり作家のグエット・トゥの願いを
日本人が叶えました。
絵画保存修復家 岩井希久子氏を中心に多くのベトナム、
日本の人々が立ち上がり、
企業の支援や最新技術の協力のもと、
9年の歳月を経て、繊細な絹に描かれた
働くベトナムの女性たちの姿が、
今ここに美しく蘇ったのです。

□活動の歴史
ベトナム近代絹絵画家 グエン・ファン・チャン
保存修復プロジェクト実行委員 中村 勤

2007年1月、仕事でホーチミンに行った時のことです。訪問先の応接室に置かれていた小さな卓上カレンダーの絵に心を引かれました。それがグエン・ファン・チャンの作品との出会いでした。「籾篩 もみふるい」( 1960年)だったと思います。

その後、画家のことを調べましたが情報は得られず、翌2008年5月作品を観る為にベトナムを再訪しました。そこで画家の長女で作家のグエット・トゥさんとの出会いがありました。初めてお会いした席で「父親の作品が傷んでいる。父の作品を次代に遺すために力を貸して欲しい」ともちかけられました。
頂戴した画集でグエン・ファン・チャンの魅力を知りました。戦時下に暮らす農村の素朴な女性や子供の姿を温かい眼差しで丁寧に描き上げているのです。
帰国後、友人の紹介から大学教授、文化ジャーナリスト、日本画家、美術館の学芸員の方々を訪ね、絵画の修復についての知識と方法を教えられました。グエン・ファン・チャンを日本に紹介したアジア近代美術の研究家九州大学教授 後小路雅弘氏を訪問したのがきっかけとなり、絵画保存修復家岩井希久子氏と出 会いました。

2009年、岩井氏と作品調査のためハノイのグエット・トゥさんを再訪、3点の絹絵の保存修復を依頼されます。いずれも損傷が激しく調査した岩井氏からは「このまま放置すれば時を経ずして絵は失われてしまう」と診断されました。
経済発展と社会インフラ整備が進むベトナムですが、絵画や美術品のおかれている状況は残念ながら立ち後れています。加えて高温多湿な気候風土が追い打ちをかけています。保存修復費用を捻出するため奔走しましたが、なかなか理解が得られませんでした。
2010年、ベトナムで事業を展開する三谷産業(株)の会長三谷充氏の協力が得られることになり、ようやく保存修復が始まりました。11月には3点の作品を日本に搬送し岩井氏の保存修復が始まりました。薄い絹に描かれ、戦時中の物資不足から劣悪な紙で裏打ちされた作品は虫食いや黴、欠損や裂帛の激しい状態です。岩井氏の執念の保存修復は約1 年続きました。この保存修復作業はNHKの番組にもなりました。放送された番組をご覧の方もおられることでしょう。

2011年10月、保存修復が終わり岩井氏独自の保存法(脱酸素密閉)がなされた3 点の作品は金沢21 世紀美術館で展示公開されました。この展覧会のオープニングセレモニーには高齢と体調不良で訪日が心配されたグエット・トゥさんも列席し感謝の辞を述べられました。グエット・トゥさん所蔵の作品の保存修復活動は続けられ、2012年には2枚の絹絵と8枚のデッサンが海を渡りました。
2015 年第2 次保存修復展が東京新宿のB GALLERY で開催されました。保存修復が施されたグエン・ファン・チャンの代表作のひとつ「籾篩 もみふるい」も展示されました。
11月には保存修復が施された「籾篩 もみふるい」のハノイへの里帰り、そしてグエット・トゥさん宅に所蔵されている絹絵やデッサンすべてを(脱酸素密閉)保存する為にハノイに渡りました。この作業は、(株)TTトレーディング、三菱ガス化学(株)の協力を得て行いました。

現在も保存修復は続けられています。3点の絹絵が岩井氏のアトリエで蘇りました。今回の保存修復には日本の最先端の技術も導入されています。(株)エーディエスの協力で高精細デジタルスキャンされた画像を使用し、セーレン(株)の協力のもと岩井さんの保存修復設計図ともいえる保存修復シミュレーション、保存修復の完成度を上げる為の裏打ち紙のプリント、そして本物の絵では叶えられないデジタル復元までも行われています。

5月10日から一週間、東京上野の森美術館ギャラリーで現在までに修復された7点の絹絵と10点のデッサン、そして福岡アジア美術館所蔵の作品が一同に展示されています。グエン・ファン・チャン作品の魅力、そして岩井さんはじめ多くの企業や人々が関わった絵画保存修復の世界を是非ご覧下さい。

岩井希久子

Kikuko Iwai

絵画保存修復家

岩井希久子 いわいきくこ

1955年熊本県生まれ。1974年父の紹介で絵画修復を知る。
1980年イギリスに渡り、ロンドンのナショナル・マリタイム・ミュージアムで修復技術を学ぶ。 1984年帰国。「絵にやさしい修復」を理念に、独自に開発した脱酸素密閉アンチエイジング保存や、 日本の伝統的匠の技を導入した修復用パネルを使う等、独自の修復方法をつねに探求し続けている。
モネ《睡蓮の池》(地中美術館)、ゴッホ《ひまわり》(東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館)など 古今東西の多くの作品の保存修復を手掛けている。
2009年よりアシスタントで娘の貴愛(きえ)と共に、グエン・ファン・チャン作品の保存修復プロジェクトに取り組んでいる。
主なテレビ出演として、『NHK プロフェッショナル 仕事の流儀「母の覚悟で、ピカソに挑む)』(2010年)。
『NHK BSプレミアム 旅のチカラ「幻の絹絵よ!よみがえれ 絵画修復家 岩井希久子 ベトナム・ハノイ」』(2011年)他。
主な著書として、『モネ、ゴッホ,ピカソも治療した絵のお医者さん 修復家・岩井希久子の仕事』(美術出版社/2013年)。
『ソリストの思考術 修復家・岩井希久子の生きる力』(六耀社/2014年)。
現在、修復センター設立を計画中。(Facebook: 日本に修復センターをつくる会)

岩井希久子

傷んだ絵画の保存修復といっても、その原因をたどれば様々です。その絵が描かれた国と環境の違い、そして現在所蔵されている環境が違えばなおさらです。価値観の相違も大きな障壁です。古い絵には画家以外の手が加わっている場合すらあります。展示されてこそ、人の目に触れてこその絵ですが、劣化を防ぐには決められた環境下に仕舞い込むのが一番という話まであります。

ベトナム近代絹絵の創始者といわれるグエン・ファン・チャン。彼は女性の肌を美しく描くには絹の画布が最適であると考え絹絵を描いたと言われています。画布としての絹よりも薄い服地の絹にも描いています。水彩絵の具を絹に染め付ける様な画法です。仕上げに裏打ちの紙、表装の絹のマットも自ら貼ったと伝えられています。

描かれた時代により異なりますが、裏打ちの紙や使用した糊が作品を痛める原因にもなっています。ハノイのベトナム国立美術博物館には彼の作品が9点展示されています。国情にもよりますが、この9点の作品は温湿度が一定しない展示室で外光すら直接差込み照度も調整不能な照明のもと10年間架け替えることもなく展示され続けています。ある作品などは額の中には虫すら住みついている環境です。

絵画保存修復家岩井希久子氏は絵画のお医者さんと呼ばれています。それは、傷んだ絵のそれぞれの原因を診断し、一枚一枚最適な保存修復(治癒)法を施すからです。西洋と東洋、伝統的な方法と最新の技術を使い分ける技法です。

たとえ、どの様な技法を駆使するにしても岩井氏自らが手を施します。

失敗は許されない厳しい仕事です。また岩井氏は保存に力を入れます。絵画は描き上げられた瞬間から劣化が始まるからです。作者が彼の感性で思い描いた瑞々しい魂を長く保存したいと願うからです。

岩井氏は高名な画家のどれほど高価な作品でも、無名の画家の値が付かない作品であっても仕事は変わらないと言います。画家が絵に託した想いを汲みとり、その絵が描かれた瞬間の状態を読み取り、時に再現し、時にはそのままの状態で保存することも選択肢に入れています。

残された絹絵作品が少ないグエン・ファン・チャン。彼のベトナムの自然や人々に対する温かい視点の絵画を次代に少しでも永く伝える為に保存と修復は必要です。

女たちの絹絵

Documentaly Film

「記憶を繋ぐ人々」

ベトナム絹絵作家グエン・ファン・チャン絵画修復の記録
監督:早田 與博 撮影:伊東 悠介 照明:小平 敦夫

ヒューマニズムの画家グエン・ファン・チャン。
彼の傷ついた作品の修復・保存に執念を燃やす岩井希久子氏。
そしてベトナムと日本人の記憶すべき心を繋ぎ続ける人々。
画家の歩んだ時代と心象風景を求めてハノイ、フエそして生誕地ハーティン・ヴィンにロケ敢行。
ベトナムを代表する画家の映画に、やはり国民的作詞・作曲家チン・コン・ソンの「美しい昔」が使用されています。

ドキュメンタリー映画「記憶を繋ぐ人々」 (75分)は
5/10−16に上野の森美術館ギャラリーで開催される
「女たちの絹絵 3rdベトナム絹絵画家グエン・ファン・チャン絵画修復プロジェクト展」で上映されます。

Crowdfunding

修復プロジェクト基金

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